なぜ美学は哲学よりも上流層に刺さるのか。
その本質的な理由をひとつご紹介するならば、本来、哲学は文脈の背景にあることで、その価値が際立つものだからです。
ゆえに、哲学自体を教育的に前面に押し出すと、その知圧で品位が下がります。
それは、語り口や所作に現れます。
実際、少しでも理屈っぽい話を特定の人や集団に向けて語るような所作には、どこまでもいっても押しつけがましさが漂います。
そうした語り口は、教えてあげようという教育者然とした「上から目線」の空気感を醸し出すだけ。
これは、知識豊富な方が史実や科学を文脈のベースに語る場合も同様です。
さらに言えば、経験世界のウンチク感と相まって、より哲学の領域でいうプラグマティックさ(実用主義)も際立つといいますか。
いずれにせよ上流層にとって、そうした佇まいは琴線に触れないのでしょう。
大事なのは語る内容よりも、むしろ語り口や言い回し。
そういう意味で、私見になりますが、特に初学者にとって、文学は「哲学と美学の橋渡し役」とも言える絶妙なラインにあります。